一般社団法人ジェイス
代表理事 ごあいさつ
一般社団法人ジェイス 代表理事挨拶
2021年5月。
日本にいるすべての子どもたちが、
心から自然な笑顔があふれ出る時間をたくさん持てる社会
身体的・精神的・社会的にウェルビーイング[i]な状態で暮らせる社会 を目指して、
これまでさまざまな形で共に活動してきた仲間と、
一般社団法人ジェイスを立ち上げました。
ジェイスは、子どもたちの育つ環境の課題に気づき、改善に取り組む団体です。
たとえば、
1)子どもたちの育ちに関わる大人が、子どもと子どもの育つ環境について学ぶ機会を提供します。
2)子どもたちのウェルビーイングを実現するための研究を行います。
3)子どもたちの育ちに関わる大人をサポートします。
4)子どもへのマルトリートメント[ii]を予防するための広報や啓発に取り組みます。
大人はかつて子どもだったのですが、
だからといって、子どもの扱いがわかっているわけではありません。
気づかないうちに、
子どもたちに対して不適切な関わりをしてしまうことがあります。
私もそうです。
だから、
いろいろな大人たちが協働してさまざまな子どもたちにいろいろな角度から関わること
関わり過ぎないで見守ること
間接的に子どもの育つ環境づくりをすること
を通して、子どもたちのウェルビーイングを保障することが必要になります。
ジェイスの中心的活動は、予防的な活動です。
子どもが大変な思いをしながら生きなければならないような状況の予防を目的として、
ジェイスは具体的な活動をしていきます。
発達を阻害されている子どもたちに対してよりよい養育環境を作ろうと試みます。
予防の成果は可視化することが難しいのですが、
何もしなければ、
子どもたちの発達は、阻害していると気づかない、ときに善意の人たちによって、
ますます阻害されてしまうからです。
今の日本は、子どもたちの生活や遊びを通した体験が限定的なものになっています。
経済的な貧困状態にある子どもは7人に一人と言われますが、
体験の貧困状態にある子どもたちはもっと多いと言えるでしょう。
体験が限られる環境は、発達を阻害する可能性があります。
そのような状況を放置しておいたり、助長したりすることを、
私は社会的マルトリートメントと呼んでいます。
社会は常に発展し、子どもたちの生育環境はよくなっています。
その一方で、
社会が便利になればなるほど、自然に発達できない環境が拡がっています。
子どもたちにはすでにいろいろな問題が起きています。
今、大丈夫な環境も、あっという間に子どもたちの発達を阻害する環境になり得ます。
大人が良かれと思ってすることが、
子どものウェルビーイングを阻害してしまうこともあります。
みんながそうしているからと同じようにしていると、
子どもたちをその環境においておくことがマルトリートメントになる場合があります。
子どもの発達を阻害する養育環境に気がついたら、
私たちは情報と技術を提供して、
その環境を変えていく努力をしたいと思います。
「知る。つながる。動く」
つまり、
子どもの養育環境に関する知識やそれを改善する技術を得て、
さまざまな人とつながって、 自分の強みを活かして具体的な活動を行う。
ここまでの一連の動きができる人を、ジェイスは増やしていきたいと思います。
私たちの団体を知った皆さま。
どうぞ私たちとつながり、私たちと一緒に動いてください。
ふんわりとひろがるコミュニティを作っていきましょう。
よろしくお願いいたします。
代表理事 武田信子
[i] ウェルビーイングとは
Well + Being
身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念(WHO:世界保健機構)。
日本語で幸福と訳されることが多いが、ハピネス、つまり、瞬間的に幸せな心の状態とは異なる。ウェルビーイングな状態がどのような状態であるかを考えることは、人がどのように生きることがよいかという価値観について考えることになる。
子どものウェルビーイングは、その子どもが生まれ育つ環境の中で、さまざまな生きる上での困難はあったとしても、自分で工夫して人生を切り拓いていける自己効力感とそのための社会資源を持ち、基本的に幸福を感じながら希望を持って生きていける状態である、と私は考えている。
[ii] マルトリートメントとは
マルトリートメントというのは英語ですが、mal(不適切な)+treatment(扱い、対応、関わり)、つまり、親も含めて、大人から子どもへの不適切な関わりや対応のことを意味しています。
教育虐待もその中に含まれるより大きな概念です。マル、というと、日本語ではマルバツの〇をイメージしてしまいそうですが、ここでいうmal は、×を意味します。 下図を見て下さい。

左側半分:家庭における保護者からのマルトリートメント(従来の虐待やネグレクト)
右側半分:大人から子どもに対する社会的なマルトリートメント
上半分:何かをするという形の虐待(アビューズ)
下半分:何かをしないという形の虐待(ネグレクト)
まん中:広義のエデュケーショナル・マルトリートメント。
特に教育やしつけを名目としたマルトリートメント。
上半分:子どもの心身が耐えられる限界(受忍限度)を超えた教育の強制。
やりすぎ教育。行為者は、親や教師を含む大人たち。
下半分:教育の剥奪。教育を受けさせない状態。
左半分:教育虐待。行為者が親。
右半分:社会的な文脈で起きる狭義のエデュケーショナル・マルトリートメント。
・エデュケーショナル・マルトリートメントとなる行為は、
大人が子どもを育てるために役立つ行為だと信じているか、
一時的にやむを得ないことだと考えているか、
そうする以外に方法を知らない、あるいはないと思い込んでいる行為。
子どもに対する共感性が不足し、人権を尊重しない行為だが、
長年、文化に組み込まれ頻繁にみられるため、
その行為の重大な侵襲性に気づくことが難しい。
・エデュケーショナル・マルトリートメントは、
力を持たない子どもの立場に身を置いて振り返ることのできない
「教育熱心な」大人が起こしやすいマルトリートメント。
たとえば、
・勉強や宿題の時間を過度に優先して、
子どもが遊んだり休憩したり睡眠をとったりする時間を剥奪し、健康と発達を阻害する。
・子どもたちが苦痛なほどつまらない授業を続け、主体的に学ぶ場を与えない。
・勉強についていけない子どもに配慮しないまま、ずっと椅子に座らせておく。
・問題行動を起こす子どもを人前で頭ごなしに叱責する。
などの行為である。
参考:『やりすぎ教育』(武田信子 ポプラ新書 2021)